『3月のライオン』 その1 第1話を意識高く読んでみた 3冊目
こんにちは!さわこです。
マイナー漫画ではないのですが、大好きな漫画なので取り上げます。
~お品書き~
漫画における第1話
連載漫画において第1話は1番大切です。オチよりも大切なのです。
なぜなら
- 読者と作品の初対面だから面白い(面白そう)でないといけない
- 読者は0から作品を知っていくため必然的に1番情報量が多い
- ベテランになるほど読者の期待のハードルが高く、超えるのが難しい
などの理由があります。
また、第1話の中でも冒頭の10~20ページ目位には読み始めてくれた読者を手放さないための工夫があります。
今回はそういうところにも着目しながら読んでいきます。
あらすじ
主人公桐山零は幼い頃に事故で家族を失い父親の友人に引き取られ生きるために将棋の道を選んだ。史上5人目の中学生プロ棋士として世間を騒がせた彼は中学卒業後家を出て孤独にくらしていたが、近所の住む川本あかり・ひなた・モモ三姉妹との出会いをきっかけに様々な心の何かを思い出していく。
第1話 桐山零
本題です。
冒頭1~2ページ
冒頭です。
謎の女性が
「ゼロだって 変な名前ぇ」
と嫌味ったらしく不敵な笑みを浮かべてと言っている1コマ目。
「ぇ」が小さいのがミソです。
2コマ目は黒背景になって続けます。
文字の大きさは声の大きさです。いますよね~嫌味を言うとき抑揚をつけて嘲笑する人。まさにそんな感じです。「アナタに だってそうでしょ?」の間の取り方もわかりやすく嫌な感じです。
3コマ目
「家も無い」「家族も無い」「学校にも行って無い」「友達も居無い」とありますが、
「学校にも行って無い」「友達も居無い」のところをどちらも無理やり送り仮名まで「無い」と書かれているんですよね。
次のページ
「ーほら アナタの居場所なんてこの世のどこにも無いじゃない?」
とここで主人公が目を覚ましこれが夢だとわかります。
世界一嫌味な紹介でしたね(笑)
無い無い尽くしな彼目を覚ますとおもむろにベランダへ出るのですが、家にカップ麺、カレンダー、将棋盤、水のペットボトル、マットレス、将棋の資料……
ある意味生活感が無い!
3~15ページ
なんか暗いですよねこの漫画
そしてちらっと映るカレンダーの6月8日に印がされています。
着替えを済ませた彼はまっすぐ対局場である東京・将棋会館へ向かいます。
零が対局室に入り座布団に座り掛け軸を見ていると対局相手が入室します。
座布団に座りながら「元気だったか?零」と訊かれますが、答えません。
彼は零の育ての父である幸田さんです。
幸田は息子との久々の再開なのに天気の話しか出ない自分に呆れながら言います。
「じゃあ始めるか」
差し手が進むにつれ、零の回想が挟まります。
子供将棋大会で優勝したが、零は実の子ではない。
だから実の子たちに疎まれてしまう。
そんな過去を思い出しながら幸田を下します。
刃牙シリーズとは違い1話目で父を倒します。
表情一つ変えないまま。
幸田は「ちゃんと食べているのか?」と問いますが零は答えません。
去り際に「急に出て行って.…歩も香子も心配してるぞ……」と言い退室した後
「うそだ」
と初めて口を開きます。
この主人公15ページずっと黙ってるんですよ……
暗いですよねこの漫画
16~
帰宅途中に川辺で思い馳せているとメールが届きます。
今までの内容からは考えられないようなフォントですね(笑)
今晩はカレーだそうです。
さっきのカレンダーを思い返してみると6月8日は金曜日でした。
金曜カレーですね!!!
今回の意識ちょっと高い着眼ポイントです(笑)
羽海野チカ先生細かいですね!
零は体調が悪いと言って断ろうとしますが、あかりさんから福神漬けと玉子を買ってくるように頼まれます。
頼まれたら断れない性格を逆手に取られます。
しぶしぶコンビニによって川本家にむかいました。
「あーっれいちゃん来たー☆」
川本家に着くと一気に明るくなります。
ひなたが「れいくん試合どーだった?あかりお姉ちゃんが言ってたの 部活の大事な試合なんだって……」
と零に尋ねた。あかりはひなたに零がプロ棋士だと教えてないんですよね。
それは零のためです。
ひなたが零がプロ棋士だと知るとひなたは零の年収や立場を知ってしまいます。
ひなたはまだまだ子供なので無意識のうちにかしこまってしまうかもしれません。
零は繊細なのでそれを察知して通いにくくなります。
さっきのメールといいこの気遣いといいあかりさんはEQ(心の知能指数)が非常に高く人の気持ちをおもんぱかれる人物だとわかります。
また、次のコマで零が「勝ったよ」と初めて笑顔を見せます。ここが第1話で唯一零が笑うシーンです。
まさにここです!
作者が読者を手放さないための工夫です!
さっきの暗さを一瞬で忘れさせ、話しもしなかった主人公を笑わせたのです!
主人公がまるで別人に感じるということは違う話のように感じるということです。
一つの錯覚のようなものですね。
そしてカレーを食べているとテレビから息子によって父親が殴り殺されたという内容のニュースが流れてきます。
零はさっきの対局を思い返します。一手一手まるで素手で殴っているような感触がしたと……そして零は震えだしてしまいます。
また一気に最初の暗い話に戻るかと思ったとたん
「……れいくんどうしたの?寒い?」
ひなちゃーーーん!!
ひなたは温かい牛乳を準備しに台所へ走ります。
今はひなちゃんが温めてくれます。
そして少しは食べなさいとあかりに言われて場面が切り替わります。
零は食べえるとすぐに寝てしまい、三姉妹の祖父とあかりが零の心配話をして零のためにタオルケットを持ってきたひなたの場面に移ります。
ひなたは零が眼鏡をしたまま寝ているのに気づき、タオルケットを腰までかけると眼鏡を取ります。
すると零が寝たまま泣いていることに気づきタオルケットを肩までかけ、肩を撫でます。
ここで冒頭の暗い話とさっきの明るい話とのうまい擦り合わせをしています。
場面も居間だけど電気は落として隣の部屋と外の光が差し込んでいる、暗いけど明るい場面になっています。
ここでもまたひなたが温めてくれます。
「……おやすみ」
と言ってひなたは部屋を後にします。
舞台である東京の下町の川のコマで
「桐山零 これが僕の名前
大きな川沿いの小さな町で暮らしてゆく
C級1組五段17歳 職業 プロ棋士」
ここで第1話が終わります。
まとめ
非常に上手いですよね。
題名の通り桐山零の紹介の話です。
冒頭で零の一番暗い面を描き、中盤で一番明るい面を描き、終盤で混ぜる
それが僕、プロ棋士桐山零だ。と……
また、とても分かりやすくもあります。
ひなたが零を明るく照らして温めてくれる
名前の通りの存在ですね。
それでいてなぞも残しています。
なぜ三姉妹に両親がいないのか
など……
実に内容が濃く面白い第1話だと思いました!
よろしければ他の記事も読んでいってください!
では~ノシ